カンボジアと事業の背景
カンボジア王国は東南アジアの島しょ部に位置し、タイ、ラオス、ベトナムと国境を接している。フランスの植民地から1953年に独立したものの、その後のクメールルージュの統治や内戦を経て、1993年の選挙によりカンボジア王国としてスタートした。熱帯モンスーン気候であり、国土の東部分をメコン川が貫流してベトナムに注いでいる。国土面積は日本の約半分、人口は17百万人ほどで、水田を中心とした農業が営まれている。主要な産業は農林水産業であるが、近年は観光業(アンコールワット等)と縫製業が成長しており、経済発展も著しい。しかし貧困層も多く、農村地域での発展が求められている。
農業は雨期の稲作が中心とであり、乾季の農業の振興は大きな課題であるが、水の確保が大きなネックとなっている。乾季における水不足のために農業生産のポテンシャルが十分発揮されず、地域における貧困や都市への出稼ぎ、栄養失調等の問題を引き起こしている。一方、雨期には十分な降水量があり、この水を乾季の営農に活用できれば農業ポテンシャルの拡大や生産の多様化、高付加価値作物(野菜、果物、養魚など)の生産につなげることが可能となる。これは、米の単作を中心とした栽培システムからより多様化した生産システムへの転換が可能となり、所得機会の向上や農業の就業機会の向上につながる。さらに、今後予想される気候変動への対応といった観点からも、乾季における水資源の確保が重要となる。
大規模な灌漑事業は水資源省を中心として実施されているものの、その進捗は遅く、末端の農家において水状況が改善されるためには長い時間が必要となる。一方、小規模なため池は、農家レベルでも整備が可能であり、一部の農家ではその整備や活用が行われ、乾季の現金作物の栽培や家畜用水として利用されている。しかし、多くの地域では、乾季における蒸発や浸透量(沖積土壌)の多さから、有効な貯水量を確保できず、整備は十分に進んでいない。
乾季の水資源確保のためのため池整備技術の開発とその普及は、水資源の活用や農家の所得向上に大きな効果が期待できる。このためRUAにおいてもため池の貯水量確保の研究や技術開発が行われるとともに、その水を活用した栽培(点滴灌漑)技術の開発も進んでいる。また、一部の教員は技術の普及活動の一環として、開発した技術を地方の農業高校で展示・普及しており、農業高校生の実践的な能力の向上に貢献している。
カンボジアの中・高校でも職業教育の一環として農業実習が導入されるとともに、農業高校も設立されている。こうした、中・高校において開発した技術の導入を図り、実際に体験することは、中・高校卒業後の農業従事や農業関連産業への就業、さらには農業大学などへの進学においても、大きな効果を果たすものと期待できる。
さらに、技術の普及を行う場合には、その技術の展示が有効であり、これまでは試験場や農家の圃場で行われてきた。これを中・高校の中で実施すれば、父兄である農家が展示を目にする機会は増大し、直接的な普及効果が期待できる。
このように、乾季の水資源の確保と新たな普及チャンネルを通した農業技術普及が結びつけば、産官学の有機的な連携による新たな人材育成と技術普及に向けた体制整備が可能となる。また、地方の普及を支える人材として高卒レベルの学生の能力向上や農民の技術習得が期待できる。